福井コンシェルジュ〜私たちが福井をご案内します〜

津田寛治の「KANJIて福井」

文化的ホームレス生活の姿

 木川プロデューサーに、福井の駅を舞台に前映画を撮らないかとお話を頂いたとき、僕の中にはすでに福井で撮りたい物語があった。
 福井の街中を流れる川…そこにかかる橋を渡り学校に通う少年…そしてその橋の下で暮らすホームレスの男。物語といっても、そんな程度の断片的なイメージだったが、何故そんなものを心に抱えていたかというと、10年ほど前にFM福井で仕事をしたときのこと…。休憩中にスタッフの人と世間話をしていて、僕が「それにしても福井ではまだホームレスの人とか見たことないですねえ」というと「いますよ福井にも。ホームレス」と切り返してきた。「へえ、足羽山とかにですか?」と聞くと、その人は窓外を指差して「このビルの側にある橋の下にいますよ」と言った。そして仕事も終わりビルを出るとき、見送りに来てくれたスタッフさんが「ホームレス、そこに住んでますよ」と目の前にある橋の下を指差した。身を乗り出して見てみると、橋の下の河川敷部分に何やら物が幾つか置いてある。「ああ、今日は留守みたいですねえ」とスタッフさんものぞきながら言った。よく見ると、僕が想像していた住処とはかなり違っている。
 ホームレスの住処といえばダンボールで作られた寝床のそばに鍋やらカセットコンロやらビニール傘なんかが雑然と置かれているのを想像するが、目の前にあるホームレスの居住空間は僕の予想を裏切っていた。古いテーブルと椅子が一脚。奥のほうには洋酒の酒瓶がいくつか並んでいる。それと荷物らしきカバンが一つ。それらが抽象的に点在していた。まるで生活感が無く、幻想的な場所だった。どこで寝てるんだろう…ぼんやりとそんな疑問を抱きながら、そこに住んでいる人をイメージしてみる。アンティークな背広をはおり、ハットをかぶって椅子に腰掛け優雅に川面を眺めているホームレス…、あるいは本を読んだり絵を描いたりしているかも知れない。なにか叙事詩的な事情があってホームレスになったんだろう。たまに好奇心でのぞきにくる子供たちには、笑顔で手を振る…。僕はFM福井を後にして福井駅に向かうタクシーの中でも、その文化的ホームレスの生活を想像していた。
 学校という管理された箱の生活に絶望している少年。
 明らかに昔の僕なのだが、そんな少年が毎朝渡る橋の下にそのホームレスは住んでいた。
 ある朝、自転車を停めて橋の上でため息をつく少年。
 すると橋の下からバイオリンの音色が聞こえる。
 手すりから身を乗り出してのぞいてみると、
 ボロボロのタキシードを着た男が椅子に座ってバイオリンを弾いている。
 テーブルの上にはウイスキーのグラスと読みかけの文庫本…。
 この街に流れている退屈な時間が、その男の周りだけは楽しげに踊っているようだ。
 少年が我を忘れてその風景を見ていると、不意に男は少年のほうを見上げる。
 ドキッとするが少年は男から眼が離せない。
 男は少年に微笑みかけオイデオイデをする。
 少年が恐る恐る橋の下に降りていき男の前に立つと、
 男はテーブルの上にあった読みかけの文庫本を少年に渡す。
 それを受け取る少年。その本のタイトルは…
 タイトルは………。
 何がいいかな…。それはおいといて、その日から少年とホームレスの男の奇妙な交流が始まる。いいなあ…。いいじゃないの! よし、いつかこの話を福井で撮っちゃる。いつになるか分からないけど。そんな決意をしながら東京へと戻っていったのが10数年前。そして今、奇跡的にそのチャンスが巡ってきたのだ。木川さんにオファーを頂いた後、僕はすぐに脚本の執筆にとりかかった。