福井の豊かな恵みを昇華させた日本料理の名店
住宅街の中で、その場所だけ凛として雰囲気が漂っていた。
枝垂れた街路樹に面した二階屋は、粋な黒塀に黄壁、木製半庇に白い長暖簾という趣に満ちた風情があって、思わず身が締まる。
店内に入れば広々としていて、厨房を望む八席のカウンターが、奥のガラス窓越しに見える箱庭に向かって伸びている。
福井ミシュランでは初登場二つ星となった「御料理一燈」である。
訪れたのは9月の中旬で、夏の熱気が去り、虫の声が聞こえてくる時期であった。
その時にいただいたコース(21600円)をご紹介する。
★先付は、濡らせた大きな葉の上に置いた丸皿に盛り合わせられていた。
なんとも艶っぽい、三国の甘エビ塩麹漬け。堂々たる大きさで、噛む喜びがある大野の原木椎茸、小松菜と菊、和え衣の塩梅がピタリと決まった地いちじく胡麻ソース和えである。
高級食材を並べるのではなく、よりすぐった素朴な地のものを使った料理が心地よい。
食欲を刺激しながら、これからの料理に、期待が高まっていく。
★椀物は、日月椀に収められている。
椀種は、三国夢カサゴ、九頭竜舞茸、オクラの花、青柚子で。
サゴのアラによる潮汁が体に染み渡り、その中でカサゴの堂々たる肉体が崩れて滋味が行き渡る幸せがある。
★お造りは二回に分けて運ばれた。
まずはねっとりとした甘みを広げる、三国の活き締めのアラ、品のある甘みを感じさせる赤ウニと柔らかな甘みに顔がほころぶマイカで、燗酒を合わせて楽しむ。
続いて、ポン酢と地辛子を添えた、なめらかな身質と鉄分の香りに満ちたすじガツオ藁炙りが出された。
優しい甘みがある刺身に続く勇壮な味に、喉が鳴る。
★おしのぎは、いさきと松茸と餅米飯蒸し、からすみ添え。
なによりイサキの質が高い。小さい切り身ながら、
★焼物、栗とノドグロ、銀杏の取り合わせ。さすが本場である、ノドグロは脂がみっちりと乗っていながら深海魚特有の肉体のダレがなく、口の中で爆ぜる。
★若狭牛のヒレと吉川茄子、焼きオクラ添え、山ウニソース、吉川茄子は、重さ約300グラムのソフトボール大をした光沢のある黒紫色の丸ナス。
山ウニは赤南蛮を使った柚子胡椒。品のあるヒレ肉と締まった肉質のナスとの出会いが良く、香り高くひりっとからい山ウニの餡が、ヒレ肉の滋味にアクセントする。
★宮崎村、田んぼいい天使井上さんの、無農薬こしひかりのご飯。
最上質で塩が少ない石川県梶浦の塩ウニと新いくらにじゃこ。これらを香り高いご飯と合わせる。
さらには食欲がない時に食べるという、青唐辛子、茄子、ニシンを炊いた郷土料理が出される。
その質素なおいしさに心が緩む。
最後は水菓子。
誠実な味わいに背筋が正される時間がある。
(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。