そのデザートは、一口で夢見心地にさせる。実はスイーツ王国福井Vol.3
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そのケーキは、一口食べた瞬間に、夢となった。
良きデザートとは、美味しいだけではいけない。
世のしがらみや現実感がら味覚を解き放ち、夢へと誘ってくれる。
福井市内にある、「昆布屋孫兵衛」は、1782(天明2)年創業の老舗である。
17代目の昆布智成氏は、東京の有名店で修行後、故郷に帰り、代々続く和菓子屋を継がれた。
そして和菓子屋とともに洋菓子も作るようになったのである。
今全国のスイーツ好きは、この店にくるために福井に来ているという。
美しいケーキの一つ「淡い」と名付けられたものをいただいた。
食べた瞬間、この世のもので作られているのに、現実から離れているように感じた。
白き小さなケーキは、イタリアンメレンゲの中にマスカルポーネとフロマージュブランのムース、リュバーブ、フランボワーズコンフィチュールクッキー生地で構成されたものである。
表面には考えられないほど薄く、メレンゲがまとっていて、唇に触れた瞬間、淡雪のように消え、チーズムースに包まれる。
その無限の儚さが胸を焦らすと、チーズの濃密が舌に流れ、リュバーブの酸味が花開く。
なんと繊細でエレガントなのだろう。
一瞬自分が、自分の味覚や嗅覚、触覚が、どうなってしまったのかわからない感覚に陥って、頭が眩むほどの複雑な不思議が訪れた。
複雑でありながらも、限りなく自然でもある。
職人の意識や矜持などは微塵も見えず、太古から存在していたかのように、馴染んでいる。
食べ終えると、新たな自然の力を発見した時のように、陶然となりながら、夢の世界へと没入していくのだった。
(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。