日本一のどら焼き。実はスイーツ王国福井Vol.4
私は、好き嫌いなく、スィーツからラーメン、フランス料理割烹、大衆居酒屋など、ジャンルにこだわりなく行く。
好きなものはなんですか?嫌いなものはなんですか?
そうよく聞かれるが、すべてのものが好物であり、嫌いなものはない。
だが一つだけ白状しよう。実はどら焼きが苦手である。
おいしいとは思うが、半分くらい食べ進むと、もう飽きてくる。
食べていくと口の中の水分を持っていかれそうになるわ、甘味が積もり積もってきて、途中で食べるのを挫折してしまう
しかしこのどら焼きは、一個食べ終えた瞬間にもう一個食べたくなった。
そしてもう一個食べてしまった。
浅いどら焼き史ではあるが、間違いなく最高峰であった。
ムラなくきれいに焼かれたどら焼きは、頬擦りしたくなるほど美しい。
一度食べれば、一気に恋に落ちる。
あむと口に運ぶと、皮は赤ちゃんのほっぺに口づけしたときのように、滑らかでハリがある。
噛めばふんわりと歯が包まれる。
粒餡は、しっかりと甘いが、豆の香りと甘みが生きていて、それが心を豊かにする。
生地と粒餡の蜜月が、自然で美しい。
決して主張がある味ではない。
どこまでもさりげない。
さりげないのに心を虜にする。
さりげないのに、余韻が長い。
さりげないから、食べ終えてまたもう一個食べたくなる。
いやさりげないの裏に隠された、様々な仕事が心を掴むのだろう。
噛んだ生地の断面を見ると、縦に均一に筋が伸びていて、のびのびと生地が膨らんでいることがわかる。
おそらく生地作りや焼き温度など、長年の工夫が重ねられてきているのだろう。
東京の有名店で長らくパティシエをやられていた、現当主昆布さんが言われた。
「僕も東京で修行中に数々の名店で、どら焼きを食べました。確かにおいしい。おいしいが食べてみると、あれ?実家のどら焼きの方がおいしいぞと思ったんです」。
そのどら焼きが目の前にある。
おそらく僕は、もうこのどら焼きしか食べることができないだろう。
福井「昆布屋孫兵衛」にて。
(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。