庭園レストランでいただく、福井の食材だけで作られた料理の至福。
福井市郊外の日華化学前に、「ル・ジャルダンLe jardin」という一軒家のレストランが、ひっそりと佇んでいる。庭園を意味するそのレストランは、立派な庭園を店前に構え、床から天井まで開いたガラス窓からは、その庭の緑や花を眺めながら優雅な時間を過ごすことができる。
エントランスは、アールのついた小道になっており、これから始まる食事への期待を膨らませながら、歩んでいく時間も楽しい。
ときのコースをのという名がついた一軒家レストランがある。
秋に訪れた「ル・ジャルダンLe jardin」にコースは、福井の食材を駆使して、秋という季節に敬意を払った料理だった。
作られたのは、世界的コンクール(ルテタンジェインターナショナル2022)で優勝した堀内亮シェフである。
白い丸皿に水のゼリーを張り、庭で摘んできた葉っぱや花が散らされた、アベリティフの盛り付けは、まさに店名を表現している。
ラタトイユ、ハーブのゼリー生ハムと蜜金時、パンケーキとクリーム、干し草の香りをつけたミルクムースにコンテチーズの盛り合わせ。
どれもすごく調和が美しく、食欲をそっとくすぐり、これから始まる食事の期待を高めていく。
アミューズブーシュは、甘エビと玉ねぎのムース、パプリカのマリネ、バーブルバジル添えであった。
食べれば、玉ねぎの優しい甘みの中を甘エビが優雅に泳いでいく。
続いての前菜は、「サザエのブルゴーニュ風昆布のジュレとズッキーニのソース」。
パセリ、玉ねぎ、ニンニクによるエスカルゴバターは、貝との相性の良さでよく使われるが、そこに昆布を合わせて点が面白い。
昆布によるミネラル感が強まって、より海の豊穣を感じさせるのであった。
次はスペシャリテである「六条大麦とアカイカの温かいサラダ汐うに風味のエキューム」が出される。
越前焼の深皿には一面淡黄色の泡が敷き詰められ、ハーブと黄色い花が散らされている。
中には福井名産の六条大麦と同寸に切られたいかが混ぜられ、大麦のプチッとした食感とイカの食感が交互に現れ楽しい。
イカと大麦が気持ちよく浸かった中から、ワインビネガーのカクテルが時折顔を出し、後から塩ウニの旨味と塩気が追いかける。
大麦を使い、またこれまた福井名産の塩ウニを合わせ、エレガントな味わいを生み出している店が素晴らしい。
魚料理は「炭火の香りをつけたハタノワゼットピューレとエストラゴン香るソース、帆立と魚のムースに九頭竜舞茸の粉、黒ニンニクとヘーゼルナッツのソース」であった。
ポワレしてから炭火で焼いたというハタは、細胞が壊れておらず、まだ生きているような感覚を舌に打ち付けて、思わず唸った。
続いてはスープで「キノコのブイヨン」。
マッシュルームを6時間かけて煮出したという、旨味が凝縮したコンソメである。
口の中にマッシュルームを突っ込まれたかのような、うまみに思わず笑う。
肉料理は、「フランス産仔羊のローストブレゼしたカネロニ仔羊の煮込みトレビスとイチジクのチャツネ」。
椎茸を貼り付けた背肉の盛り付けが素敵であるローストも煮込みも、加熱が精妙で肉の躍動感があり、赤ワインが恋しくなる味わいがフランス料理特有のエスプリを感じさせた。
デセールは、メインの福井梅に、秋と題されたホワイトチョコ梅のクリームジュレコンポート、ミルクのアイス栗のチュイルとクリーム。
まろやかな酸味を醸すチョコ梅と秋の実りを感じさせる栗のチュイルに、心が溶けた。
外を見れば、すでに闇となった庭に微かな灯りが灯されている。
そんな閑静な景色を眺めながら、ゆっくりとコーヒーをいただき、安寧の幸せを噛み締めながら食事を終えた。
(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。