本格タイ料理を越前市で発見!タイ風お粥に癒されるの巻
福井県には、優れたフランス料理店もイタリア料理店もある。
しかし東南アジア料理を食べようと思うと、難しくなる。
なかんずく最も代表的な、タイ料理とベトナム料理を食べようしても、苦労するだろう。
ちなみに食べログで調べてみると、タイ料理は7軒、ベトナム料理は4軒しかなかった。
東京のタイ料理850軒、ベトナム料理345軒を人口比で勘案しても、明確な過疎地である。
ある日福井の越前市を取材中、カレーライス店から取材を断られ、途方に暮れた。
そこで同行者が代替案として,四川料理とタイ料理はどうですかと聞いてくるではないか。
福井でタイ料理?まったく期待できません。
そう一瞬思ったが、食べログで店の外観を見比べて、これはタイ料理だろうと決めた。
写真をご覧いただきたい。
勇気がなければ、とても入れそうにもない店構えである。
怪しい。
入った瞬間にタイ人に囲まれて、キックボクシングの相手にさせられるんじゃないか。
暴利を貪られるんじゃないかと、不安になる。
近くに住んでいる人も、店の存在は知ってはいたが,入る勇気がなかったという。実にそっけない。
長年タベアルキをしてきたが、こういう店こそあたりの可能性が高いことを知っている。意を決して入った。するといかにも人が良さそうな,タイ料理なんか食べたこともありませんという、70代のおっちゃんが一人出迎えて「いらっしゃいませ」と、優しい声で言う。
このおっちゃんが作るのかと、たじろいでいると,奥から眼光鋭い50代のタイ人女性が
出てきて、「何人?」と、聞いてくる。6人だったので、奥の座敷に通された。
奥座敷は客席とはいえ、自分たちの居間を半分使っているようで、洗濯物が干してある。
生活臭が半端ない。
だがこれぞタイ料理である。盛り上がってきた。
写真メニューを見ると、40種くらい載せているではないか。本格的である。
こんな用意して、この過疎地で頼む人がいるのだろうかと、余計な心配をする。
だが、カオマンガイの写真の下には,「たまに」と書かれている(笑)
いくつか料理を頼むと、「餃子おいしいよ」と、奥さん(あのおっちゃんの奥さんだったのだ)がいう。タイ料理で餃子を薦めるのかと思いつつ、おばちゃんの迫力に負け頼む。
すると「いくつ?2つ?3つ?」と、聞いてくる。
迫力に押され、つい「2つ」と言いそうになったが,「1つ」と、お願いした。
最後に食べログで写真を見て、行く気になった料理を頼むことにした。
「ジョーグ」である。タイ風の米を潰して作るとろとろのお粥で、中国料理のそれが変形したらしい。
東京でもなかなか食べることが叶わないので,久しぶりに食べることができるとお願いした。
すると「ああ、それできない」と、一刀両断。
「そうですか。残念。僕これ好きなんです」。
「できない」。
「以前食べた時においしくて、好きになりました」。
「作るよ」。
「えっ?ありがとうございます」。
「今日はヒマだからね。これ作ると、鍋洗うのメンドくさいネ」。
おばちゃん、ツンデレなのであった。香り高いレモングラスと春雨入り餃子、とびっきり辛いラープ、豚頬肉の焼豚コムヤン、甘辛い青菜炒め、ガパオやパッタイもおいしかったよ。
でもジョーグだね(メニューには「ジョグムゥー」)。
潰れて糊状になった米の甘みが,旨みが優しい豚スープと溶け合って、心を温めてくれたよ。
ありがとう。
「冬はタイの野菜ないね。今度夏に来てね」。
「来る来る」。
福井にタイ料理を食べに行く。
そんな旅もまた楽しいではないか。
お店の場所はこちら
ナームチャイ
〒915-0071
福井県越前市府中3丁目14-28
TEL:0778-24-2366
(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。