サザエやがんもどきとオムライス?どこにもない病みつきオムライスが生まれたワケとは?
そのカフェは、
三國海岸の海を前にしてポツリと佇んでいた。
ブルーに塗られた壁には、海藻やイソギンチャク、珊瑚がたなびく海底で様々な魚たちが泳ぐ、可愛らしいイラストが描かれていた。
サーファー隊の溜まり場だろうか。そんな想像してメニューを開いて目を丸くした。
夏のオススメとして、「サザエオムライス」があるではないか。
全国をタベアルキ、いろんなオムライスに出会ってきたが、サザエを使ったオムライスは初めてである。
海女さんが活躍する三国ならではの料理だろう。
説明書きには「地元の海で海女さんが撮ったサザエを使用」とある。
しかも千円とは、都会の人間にとっては破格の値段である。
これは食べてみなくてはいけない。想像をしてみた。
オムライスの上にサザエの切り身がたくさんかかっているのか?
あるいは切り身をチキンの代わりに炒めた、ケチャップ味か?
しかし運ばれてきて、2度目を丸くする。
小さな鍋にオムライスが入れられている。
まだどこにもサザエは見えない。
しかし、サザエの殻が奥に置かれていて、中には灰緑色したソースが入っている。
これはまごうことなきサザエの肝色である。
ケチャップの代わりにこれをかけろというのであった。
そこでどろりとかけてみた。
黄色いオムライスの肌に灰緑色のソースがかけられた光景は初めてだが、スプーンですくって、口に運んでみた。
うむ。ありである。中のライスは、うっすらとした醤油味か。
つまり卵の甘みに醤油味のご飯、そこにうまみが凝縮した肝のソースが絡むのだからたまらない。
どちらかというと、これは大人が喜ぶ味である。
ケチャップのわかりやすさはないけど、こいつを食べながら日本酒をやりたくなる味なのだな。
さらにライスを見れば、サザエの切り身がゴロゴロ入っているではないか。
時折弾むサザエの食感が楽しい。
今度は直接ご飯に肝ソースをかけてみる。
よくよく混ぜて食べれば、余計に燗酒が恋しくなった。
気になったのは、サザエオムライスだけではない。
「がんもどきの和風オムライス」なるものもあるではないか。
がんもどきとオムライスはどう考えても結びつかないので、こちらも頼んでみることにした。
するとごろっとがんもどきをぶつ切って入れたソースが手前に注がれている。
三国の小坂豆腐店のがんもどきで、ソースは生風味だった。
オムライスにありがちな、太っちゃうなあと言う罪悪感がない。
互いに10年くらいやられている人気メニューだと言う。
「なぜオムライスいサザエを?」と、聞けば
「最初はサザエ丼をやろうと思って試作したのですが。
小さいのでかなり数入れないと成り立たず、それでは高価になってしまうと思い考え出しました」。
「でも肝は肝ソースなんです。黒っぽいソースにすると味が濃すぎるし、生クリーム入れると色が悪くなる。わるくなって、じゃあ殻に入れてかけたい人だけかけてもらおうと始めました」
玉ねぎ入れたのは、海女さんが手早くたべるサザエのそうめんに必ず入れるのが玉ねぎだからです」。
サザエやとこぶしなど貝とか玉ねぎを合わせた安東素麺などと呼ばれる郷土料理で、昔はサザエがお金にならなかったために、そんな料理ができたのだと言う。
またがんもどきのほうも、店主が高校の頃に、がんもどきの煮付けにご飯が入ると美味しかったから思いついたのだという。
どちらも他ではない、突飛なオムライスだが、きちんと地元の食文化もベースにしている点が、素晴らしい。
お店の場所はこちら
コーヒー&レスト アメリカン
〒913-0065
福井県坂井市三国町崎57
TEL:0776-82-0418
(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。