勝山市で見つけた、福井一のそばの逸品。
入った瞬間、優れた蕎麦屋の匂いがした。
整然として、凛とした空気が漂っている。
余計なものはなく、漆塗りの蕎麦打ち棒が数本飾られていた。
そんな店を、そば職人の旦那さんと奥様の二人で切り盛りされている。
福井では、数々の蕎麦屋に行った。
それぞれに特徴があって、魅力がある。
だが東京のやたらうるさいそば通を連れてきたらどういうか。
そこに少しだけ不安があった。
最もそば通相手に商売をする必要はないのだが。
お品書きのもその匂いはあった。
そばは10割と粗挽きの2種類があり、「おろしそば」、「辛味大根おろしそば」、「つけとろおろしそば」、「もりそば」、「鴨せいろ」と、至って簡潔である。
温かい蕎麦もあるが、冬季のみとなっている。
この辺りも、いわゆる趣味蕎麦と言われる、そば通向きの品書きである。
そこで「そば三昧」という、もりだし、おろし出汁、辛味おろし出汁の3種のそばつゆがついて、
10割のそばが通常の2倍もられるお得な品書きをお願いした。
待つ間店内を見渡すと、第12代準名人中村好太郎という盾がある。
聞けば、15年前蕎麦打ち名人大会で受賞したものだという。
これは期待できるぞ。
そばが運ばれた。
平打ちの細いそばは、
切り口のエッジが立った、いいそばである。
早速何もつけずにたぐってみた。
うむ。
そば自体香りがいい。
草のような香りが鼻に抜けていくし、甘味もある。
噛めば、ムチっとして、歯を少しだけ押し返そうとするコシがある。
そば自体では、今まで食べてきた店の中のベストではないだろうか。
おろしもりのつゆは甘めだが、しまっている。
鰹節などをおごったなと感じさせる、濃い出汁の味が伝わり、だれていない。
もりそばのつゆもきりりと締まり、上等である。
一方辛味しぼりは相当辛い。
イタイ!と言いそうになるほど、辛くてよろしい。
辛いと思ったら、次はおろしそばやもりそばのつゆをつけてたぐる。
すると一旦辛味は退散する。
再び辛味おろしそばつゆをつければ、さらに辛いっとなる。
この相反するジェットコースター状態が面白い。
ここはそういう風に、辛い、甘い、辛い、甘い、辛い、甘いを繰り返していきながら食べるのが、いいのだな。
蕎麦湯もいい。ドロドロ
やや平打ち。おいしい。
12代蕎麦打ち名人会準優勝、福井で最もいい。
お店の場所はこちら
好太郎
〒911-0848
福井県勝山市鹿谷町98-7-2
TEL:0779-89-2415
(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。