果物の本来の味と香りを生かした堰に通じる本格ジェラート
「ここで本格的なイタリアンジェラートが食べられるんですよ」。
そう言われて連れて行かれたのは、どこにでもあるような農産物直売所だった。
「え?!ここにはないだろう」。
そう正直に思ったのは、確かである。
甘味売り場には、大量のおはぎや大福類、甘い餅類や、丁稚羊羹などが、売られていた。
さすが「実はスイーツ王国ふくい」である。
そんな売り場の片隅に、ジェラート屋はあった。
なんと店主は、毎年のイタリアのジェラート大会に挑戦し、2014年の1月に行われた大会では、特別賞を得たという。
最初にいただいたのは、「ローズマリーベリー」という、他には見ないジェラートでだった。
2018年ジェラートマエストロ日本選手権の自由部門で優勝した作品だという。食べて目を見開いた。
香り高い。
果物が生きている。
ベリーの香りの中からローズマリーの爽やかな香りが漂って、気分が晴れやかになる。
目を瞑ればベリーの畑に立っていて、離れたところに植えてあるローズマリーの香りが風に乗って肌を撫でているようだった。
次にいただいたのが、りんごシャーベットとチョコレートである。
りんごも余計な味が一切なく、林檎本来の甘みや酸味が生きている。
チョコレートのほうは、その濃厚の苦甘みの中から、桜の香りが後から追いかけて優しい。
どれも、使っているハーブや果物への敬意に満ちていて、清々しい気分になる、真っ当なジェラードである。
「これもぜひ食べてみてください」
店主から
そう言って渡されたのは、意外にもソフトクリームだった。
ひと舐めすると、濃厚なミルクの味が広がった。
糖分よりも乳脂肪分の甘みとコクを感じるソフトクリームは、なかなかない。
コーヒーソフトクリームは、最後にパッと香りが立ちあがる。
コーヒーとシンプルなソフトを二つ頼んで少しだけ混ぜると、これがたまらない。
「これは牛乳の美味しさを知っている人のソフトクリームですね」。
そう感想を伝えると、
「ありがとうございます。実は父が森國牧場をやっていまして、そこのミルクを使っているんです」。
そう言って女性店主が、誇らしげに笑われるのであった。
(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。