若い方がいいか、ヒネた方がいいか? 君はどちらを選ぶ?
隣に飲食店もない街道沿いに、ぽつりとある。
街道沿いの小さな食堂である。
知らなければ、入らないかもしれない。
だがこの店名はなんだ。
妙に引っかかる。
「孤独のグルメ」の吾郎さんなら必ず入るかもしれない、ガラス戸を開けた。
「いらっしゃいませ」。
お母さんの元気な声が響く。
メニューを一通り見て質問した。
「焼きそばは、ソース焼きそばですか?」
「うん、みんなから醤油入っているのかって聞かれますけど、ソースしか使ってないんだけどね」。
答えになっているようで、なってないのが可愛らしい。
「とりもつって煮てあるんですか?」
「酒飲み用に甘辛いよ」
これもまた答えになっているようで、
なってないのが可愛らしい。
運ばれた「とりもつ」は、鳥の肝と砂肝を
甘辛く炊いてあって、こりゃあ酒が欲しくなる。
ビールをお願いした。
「とりもつ」を食べながら、ビールをちびちび飲む昼過ぎ。
なんかいいなあ。
カウンターには、常連のおさんたちが居座っていて、名物「ひね足」を摘みながら、もうビールを二本も空けている。
「すいません、ひね足と若足をください」
親鳥の足と若鳥の足をじっくりと素焼きし、創業来の秘伝のタレをかけた料理で、それぞれ一本を見せてから、細かく切って、皿にもりなおしてくれる。
タレはどうも酢醤油をベースにしているらしい
若足は、20〜30回ほど噛む。
タレは、同じ酢醤油系ながら醤油が濃い。
ひね足は、65回ほど噛ませる。
やはり親鳥、筋肉が発達しているのだな。
タレは、こちらの方が酢味が強く、味の違いで親と子を分けているそうである。
やはり親の方が大人、酢い甘いも噛み分けてというところなのだろうか。
オムライスを頼めば、チキンライスを玉子焼きで包んだ普通の形だが、上にかかるソースの色が茶がかっている。
聞けば、ケチャップにソースを混ぜているそうで、なんというか下品の迫力がケチャップよりあっていい。
変わった店名の由来を聞けば、創業は昭和34年で、初代の徳利(のりとし)さんの名前と、酒飲みが気軽にきてもらえるようにと、とっくりをかけて名付けたのだという。
地元に根ざした大衆食堂や大衆居酒屋はいい。
長年の客の愛着と人情、酒が隅々まで染みていて、居心地がいい。
「ご馳走様でした」。そういって店を出ようとすると
「ありがとうございまーす」というお母さんの明るく大きな声が背中にかかった。
お店の場所はこちら
トックリ軒
〒910-2165
福井県福井市東郷二ヶ町28-31
TEL:0776-41-0237
(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。