ここは少し変わった蕎麦屋です。店主も風変わり。でも石臼挽きの見事な蕎麦が食べれるんです。
「店主、少し変わってます」。
「ポーボ軒」という変わった店名は、そう語りかけていた。
東南アジアか南米料理か、スナックか。
一見なんの店かはわからない。
入り口に「ポップヌードル」と書かれているので、ラーメン屋だろうか。
だがその横に、「新そば」と書かれた小旗が下がっていた。
そうここは蕎麦屋なのである。
それにしても蕎麦屋という形態と、「ポーボ軒」という名前はどうもそぐわない「こんばんは」。
店内に入ると、丸メガネにベレー帽子を被った店主が出てきて、挨拶された。
その風貌、まったくもって、蕎麦屋店主らしくない。
店内も個性に溢れている。
自ら描いた、いたずら書きアートとグルグルマークにPOPと言う文字が、埋め尽くしている。
そば界の楳図かずおか。
傍には「スマホは創造のじゃま」の張り紙。
メニューを見れば蕎麦は三種で、「あらびき」「ちゅるちゅる」「ぴろぴろ」と、ある。
「あらびき」だけ意味が伝わるのが、逆に怖い。
ざるそばのざるという文字は消され、一言「もり」。
おそらく「かけ」と書かれていた文字の上にはポストイットが貼られ「ない」の一文字。
単刀直入でよろしい。
「ちゅるちゅる」は、細打ちで、「ぴろぴろ」は平打ち、粗挽きは太打ちだという。
店名は、かつてミュージシャンだった店主のあだ名で、そばの命名と共に「蕎麦屋が多い街で、後進のぼくが同じことをやってもしょうがないのでも考えました」。
しかしそれが今では少し壁にはなってはいないか
蕎麦ファンは保守的人が多いので、敬遠されはしまいか。
心配になってきた。
だがそばは素晴らしい。
香り高く、草のようなそばの香りが鼻に抜けて、並大抵のそばではないことを語っている。
他もやっていない、自家製石臼挽きのうまいそばを出すのに、市民に理解されているようには思えない。
繁華街の入り口角という好立地なのに、客は少ない。
などと親心のようなものが働いて、心配になってしまう。
唯一の救いは、江戸時代から続く老舗お茶屋のご主人が気に入って、よく食べに来ていることだった。
折しも隣り合わせて言うことには、「ここのそばはダントツにうまい」と褒めちぎっていた。
こういう蕎麦屋もあるところが、そば処の福井の懐の深さか。
お店の場所はこちら
ポポー軒
〒910-0023
福井県福井市順化1丁目6-3
(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。