名物は蟹だけにあらず、イカと魚の桃源郷。
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食べながら、自分がイカになるかと思った。
「その日の烏賊丼烏賊増し」
を頼んだら、全面がイカ、イカ、イカである。
もはやご飯など
見えない。
イカ刺身も頼んだら、横切り(向かって左)と縦切りに分かれて2ハイ分だされた。
越前海岸の「まつ田」である。
イカ刺身は、横がしなやかで、繊維を断っているのであまい。
縦は、コリコリとして、
食感の楽しさが味わえる。
そして「漁師丼」は、イカの甘醤油和えで、黄身が落としてある。
おろし生姜を散らし、よく混ぜ混ぜし、途中で酢橘を搾り、紫蘇を散らして、ワシワシ食べた。
イカの甘みとご飯の甘みに、大笑いしながら食べ終えると、「げんげの唐揚げ」を出してくれた。
衣が突き破れると、全身コラーゲンのブルブル深海魚は、舌にとろんと甘く、目前
の大海原の光景が、やさしくなっていくのであった。
「松田のせいこ丼」で一躍有名になった
「まつ田」だが、蟹の季節出ない時は、イカを食べにいくに限る。
イカを知り尽くした松田さんの料理は、料理にかない、イカのあらゆる魅力を引き出している。
やはりなんでも、大量に食べてみないと真実は見えてこないものであることを知った。
食後は、同じ経営だという越前の塩を混ぜたバナナジュースを、潮風を受けながら飲む。
広い空に差し出されたジュースは、どこか、嬉しそうだった。
(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。