福井に天ぷらの名店あり。しかもうな丼もいただけるのだ。
「15で修行をはじめ、独立した時、「みかわ」の早乙女さんの本に出会ったのです。読んで、今まで感覚的に捉えてきたことは間違いなかったと思いました」。
70歳になられるご主人はそう言われて、静かに笑われた。
その後東京に行って、天ぷら屋巡りをしたという。
「何軒も回りましたが、みかわさんだけは、二回行きました」。
そうか、最初にエビをいただいた時、既視感を感じたのはそのせいか。
「みかわ」の早乙女さんは、東京門前仲町にある、日本一の天ぷらと称される江戸前天ぷらの名人である。その薫陶を受けた素晴らしい天ぷらが次々と上がる。
熱せられた塩ウニが色気を持ち、酒が猛烈に恋しくなる、「イカの塩ウニ詰めの天ぷら」。
生と焼いた鯛という両方の魅力を一つにした、「鯛の天ぷら」。
口の中で膨らむ香りが半端ない「九頭竜舞茸の天ぷら」。
米を混ぜたあんこと包んだ「饅頭の天ぷらな」など
独自の天ぷらもある。
中でも、ササガレイの天ぷらが良かった。
身が緩く水分のあるササガレイは、天ぷらには難しいように思う。
「手前の子持ちは塩で、奥は天つゆでどうぞ」。
魚にふんわりと歯が入る。
甘みがじんわりと広がっていく。
海老やイカより一歩踏み込んだ揚げが、この繊細な魚の持ち味を、最大限に引き
出していた。
「揚げる前に3時間ほどペーバーで水分を抜き、他の魚より突っ込んで揚げています」。
ここにもまた1人、現状に満足せず、より良い明日を求め続ける職人がいた。
さらにこの店ではうな丼もいただける。
蒸して焼いた鰻をご飯
にのせ、丼の蓋を閉める。
だがその丼を、再び蒸し器に入れるのである。
やがて熱々の丼を取り出す。
蓋を取ると、湯気が上がり、蒲焼の香りが顔を包んだ。
鰻もご飯も熱々な丼は、ご飯と鰻が一心同体になる気配があって、うなぎの脂と旨味がご飯の甘みと溶け合う。
この一体感は、丼ごと蒸したうな丼の魅力だろう。
熱々うな丼をかき込みながら、
胡瓜と大根の古漬けを箸休めに食べる。
これが、またたまらない。
お店の場所はこちら
天菊
〒910-0023
福井県福井市順化1丁目14-4
TEL:0776-27-4628
(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。