ここは福井の宝である。

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ここは福井の宝である。

中央卸市場の場外にある食堂街「鮮市場」には、8軒ほどの食堂が並んでいる。早朝から市場で働く人たちの胃袋を受け止める食堂である。しかし多くが、店主の老齢化のため店じまいしてしまった。その中で二軒、半世紀ほど営んでいる店がある。二軒は、他の店とは違い、観光客目当ての海鮮料理は置いていない。実質的に胃袋を満たす、炭水化物中心である一つが「たにや食堂」という。店主は75歳で、おかみさんもほぼ同年齢、42種類プラスつまみが14種類のずらりと並んだ料理は、仲買人に美味しいものをたらふく食べてもらおうという心意気に満ちている。

朝3時半に開店するこの店のオススメは「はいからうどん」である。

どこが「はいから」

なのかはわからぬが、牛すじの煮込みを乗せたうどんをそう呼んでいる。

1日煮込んだという牛すじは、とろとろでコラーゲンと脂の甘みを広げていくる。

その煮汁がうどんつゆにとけこんで、またうまい。

しっこりとしたうどんと相まって、朝の体に精力を満たしていくのだった。

ここに白もさえびのフライをつけてみた。がさえびのプリッとした食感とは違う、ふんわりとした肉体を噛めば、ほのかな、優しい甘みが滲み出た。

「はいからうどん」の他は「ラーメン」もいい。

醤油味濃いスープに中細ストレート麺がからんで、昭和の匂いが漂う。

「ラーメン」というより、「支那そば」と呼びたい味わいである。具の煮豚は臭みなく、しっとりしておいしく、もやしはシャキッと弾み味のしみたシナチクもしなやかで、最近の豪華絢爛的ラーメンとは違えど、すべてにわたって丁寧な仕事が感じられるクラシックは、心を洗う。

ここに家族経営による人情味という調味が加わって、店を出るときには、「また来るね」といってしまうのだな。


マッキー牧元
(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。年間700軒ほど国内外を問わず外食し、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。そのほか虎ノ門横丁プロデュース、食文化講師など実施。日本ガストロノミー協会副会長、日本食文化会議理事。最新刊は「どんな肉でもうまくする。サカエヤ新保吉伸の真実」世界文化社刊。
7年前に小浜地区の仕事を通じて福井の食材の豊かさに惚れこみ、今回の福井各地の美味しいを探す旅のきっかけとなった。

お店の場所はこちら

たにや食堂

〒910-0836

福井県福井市大和田1丁目101

(福井市中央卸売市場・ふくい鮮いちば)

TEL:0776-53-1302