「実はスィーツ王国福井」第9弾、「天清酒万寿店」の酒饅頭と皮羊羹の巻

「天清」と書かれた木箱に、紅白のまんまるいまんじゅうが並んでいた。
大きな酒饅頭で、全国でもこの大きさは珍しい。
なによりその姿が、愛おしかった。
手に持つと、ほたっと吸い付くように、饅頭が手のひらにくっつく。
口をあんぐりと開けて頬張ると、酒の甘い香りがふわりと漂う。
中から優しい甘みのあんこが、にゅるりと顔を出し、舌に広がった。
香りが豊かで、幸せな気分を運ぶ酒饅頭である。
そしてこの大きさがいい。
口いっぱいに広がるこの大きさが、幸せ感を増幅させる。
この酒饅頭は、貸本業を営んでいた初代天屋清治郎氏が、酒饅頭の製造方法を教わり、本業の傍らで売り出したのだという。
時は、天保初年(1830年)で、以来7代に渡り、195年間製法が受け継がれてきたのだという。
店名は、初代の名前から二文字取ってつけられた。
二日かけて作られる饅頭は、餅米に米麹を合わせて、酒の酒母(元)のような元ができたら、汁を絞って小麦粉と合わせて生地を作るのだという。
普通の酒饅頭のように酒粕を入れるのではなく一手間かけた、この作り方であるからこそ、あの上品な香りが生まれるのだろう。
だからこそ200年間近く愛され的のだろう。
さてここには酒饅頭と並ぶ名物がもう一つある。
「皮羊羹」という、珍しい羊羹である。
竹皮で包まれた、蒸し羊羹である。
自家製のこし餡を天然の竹皮に包んで蒸し上げた素朴な味わいの羊羹で、竹皮を剥くと、その皮筋が付いた羊羹が現れる。
口にすれば、ほんのりと竹皮の香りが広がり、蒸し羊羹独特のもちっと柔らかい羊羹に歯が包まれていく。
この香りと食感に惹かれる。
あまつさえは小倉餡だけでなく、塩味、柚子味、抹茶味などバリエーションがあるのがいい。
おすすめは柚子味で、あっさりとしたまみの中で柚の香りと竹の香りが交差して共鳴する。
この「皮羊羹」は、氣比神宮の門前町である現在地にあることもあり、古くから氣比神宮例大祭に集まる人たちに、大いに好まれたという。
氣比神宮例大祭は、九月二日から五日にかけて執り行われる「氣比の長祭」として有名な祭りで、宵宮車が曳き出される。
その山車の舞台では、町内の子ども達が太鼓や三味線によるお囃子を奏で、踊りを奉納する。
この宵宮祭を執り行った夜、神の御霊が降臨され、 例大祭が始まる。
年に一度の大切なお祭りを祝い、願いを唱える人たちの小さな幸せをになってきた酒饅頭と皮羊羹は、今でも生きている。
長く愛されてきたものには、意味があり、真の味が宿っている。
そんなことが身に染みた、お菓子であった。