ずぼがに、勝山水菜、岩海苔。福井の初春の恵みで酒を飲む。

人気の居酒屋「紋や」で、水蟹と初対面した。
越前蟹は、何度もお会いしているが水蟹はない。
茹で上がった蟹の胴体はなく、脚だけである。
福井の人が、足を持って身を取り出してくれた。
「するる。ズボッ」。
蟹脚の上部を爪で割り、そのまま引き出したら、きれいに身が抜けた。
越前蟹では、そもそも爪で殻を破ることはできないし、たとえ割れたとしてもこんな簡単には、出てこない。
このズボッと抜けるところから、福井では通称「ずぼがに」と呼ばれている。
脱皮直後の若い雄の越前蟹である。
兵庫県と福井県のみ漁が、解禁されているという。
身はみずみずしく、最初は淡い味だが、5回ほど噛むと、蟹の甘みが湧き出てくる。
ミソは、未発達のせいか苦く、黒くなるので、脚だけを食べるのだという。
歳の頃は15.6だろうか。
少年から青年になろうとする、勢いがある。
だがその勢いは、青々しく、幼い。
これから海底を動き回って、筋肉を発達させ、2倍3倍と大きくなり、自らのアイデンティティを求め、交尾もし、大人になっていくんだなあという気配がある。
漁師によれば、こいつは中学1年くらいかなという小さな奴でも、大人に近い味のものもあれば、他よりはるかに大きな奴でも、まだ未熟な味のものもあるという。
なんか人間の世界にも通じるなあ。
他にも福井ならではの料理をお願いした。
まずは勝山水菜(かつやまみずな)である。
勝山水菜は、福井県勝山市で江戸時代から栽培されている伝統野菜で、雪深い地域の冬の間に育ち、雪解け後に収穫され流、春を代表する野菜だという。
お浸しでいただいた。
ほうれん草より力強い。
一瞬柔らかいが、噛んでいるうちにシャキシャキする。
奥ゆかしい歯触りが面白く、ほろ苦い中に甘みがある。
次は永平寺銀杏である。
永平寺町で育てる特産物で、大粒で実がしっかりしていることが特徴だという。
確かに噛めばむっちりとして甘みがある。
次は「蒸しすだれ貝」を頼んでみた。
アサリに似た二枚貝だが、身が一部赤い。
殻に簾状の模様があることからその名がついた珍しい貝だという。
希少性が高い貝ということであった。
味もアサリに似ているが、ややアサリより味が淡いという感じで、赤い部分は少し硬い。
そのほか、芋の自然な甘みに満ちた「とろろ芋グラタン」や、ぬるんとして箸で掴みづらい食感がいい「水たこ」もおすすめである。
シメご飯はそうだなあ。
「塩ウニと胡瓜の細巻」という燗酒も呼ぶ巻物もいいし、「岩海苔茶漬け」で海の香りに包まれてみるのもいいぞ。