隠されたうなぎを発見して、歓喜するの巻

鰻の蒲焼は、関西風の地焼か、関東風の蒸し焼きか。
好みが分かれるところだが、この店では悩まなくていい。
地焼の「鰻丼」と、蒸し焼きの「真蒸し重」の二つが選べるからである。
それでは両方頼もう。
「鰻丼」が運ばれた。
朱塗りの丼にご飯が詰められ、タレ焼きしたうなぎが半匹乗っている。
尻尾が丼の縁にしなだりかかって、ちょいと曲がっている姿が愛おしい。
地焼きながら、あまりカリカリではなくていい。
皮下のコラーゲン感がしっかり感じられる。
つまりくにゆっとした、ほの甘いゼラチン質を感じるのであった、
川魚としての、躍動感のある鰻丼である
丼だから片手に重さを感じながら、食べるのもいい。
硬めのご飯も、鰻丼としては正しい姿勢である。
一方真蒸し重(まむし重)は、背の高い、長方形のお重に入れられて、運ばれた。
ご飯の上に錦糸卵が散らされ、その上には焼いて蒸したという、蒲焼が半匹置かれている。
ここに刻み海苔をかけて食べるのだという。
さあ食べようと、ご飯に箸を刺し入れた。
深い。
ご飯が深い。
ああ。
なんたることだ。
ご飯が深いのには理由があった。
なかに蒲焼が挟んであるではないか。
つまり、ご飯、鰻、ご飯、鰻と、重なっているのであった。
真蒸し重は、蒸してあるだけあって、ふんわりと柔らかい。
肉も皮もゼラチン質も、ふわりとろんと溶けていく。
これはいい。
窓の外には、高さ3メートルはある灯籠や、巨大な池や島もある。
創業73年になるが、初代が作ったものだというと、4代目の若主人が教えてくれた。
折しも紅葉の季節で、色づいた葉たちか、鰻の美味しさに微笑んでいるようだった。