和の精神を貫いた、唯一無二のカレー

和の精神を貫いた、唯一無二のカレー
福井市郊外にあるカレー屋である。
店名を「本道坊」という。
ご推察の通り、フォンドボーと本道を掛け合わせたダジャレである。
店前にある5台分の駐車場は、番号ではなく、C・ U ・R ・R ・Yと書かれている。
道路沿いの看板には、「カレーと和とお酒の店 本道房」と、書かれている。
店の外壁には、「I ♡curry rice」とかかれ、外の立て看板には、「スパイス整いました」と、ある。
もうこれだけで、普通のカレー屋さんとは違うぞという雰囲気が漂っているのであった。
「いらっしゃい」。
中に入ると、眼鏡に髭面のマスターがにこやかに出迎えてくれた。
メニューには「カレーと和とお酒の店」と書かれている。
ところが料理を見てもカレー11種類に、トッピングとしてのジャンボウィンナー、唐揚げやチーズなど、どこにも和を感じさせるものがないではないか。
「どこが和なんや」と、心の中でツッコミを入れながら、カレーを頼んだ。
「コク旨バターチキン」、「サグチキン」、「ラムミント」、「ダルキーマ」、「富永ホルモンと牛すじ肉を古村醤油で煮込んだ厚揚げ入りカリー」、「野菜たっぷりグリーンカリー」、「レッドカリー」、「ポークカリー」の8種類をお願いした。
「コク旨バターチキン」を食べて思う。
バターのコクやスパイス香より、トマトの味が生きている。
聞けば、はしもとさんの「越のルビー」というトマトを使っているのだという。
次に、「サグチキン」を食べて目を丸くした。
こちらもほうれん草の味と香りが生きている。
そしてその中を、ホーリーバジルの爽やかな香りが駆け抜けていく。
そして「レッドカリー」を食べて、土地肌がたった。
タイのレッドカリーとはまったく違う。
これはビスクである。
甲殻類の旨味が詰まったソースである。
口の中に、魚介の旨みをぶち込まれた衝撃があってから、辛味やスパイスが追いかけるのであった。
他のカレーもまったく味の構成は同じである。
「ラムミント」は、子羊と果物、ホーリーバジルを使ったカレーで、果物の甘酸っぱさと羊の旨味が生きていて、青々しい香りの抜け感がいい
爽やかな香りの風が、舌の両端を駆け抜けていく。
「ダルキーマ」は、鶏ひき肉に、五種類の旬野菜と隠し味に無添加味噌 を加えたカレーで、甘みが優しく深い。
そしてなにより、ひき肉の旨さが光っている。
「富永ホルモンと牛すじ肉を古村醤油で煮込んだ厚揚げ入りカリー」は、辣油的な辛味と香り、さらにカラメル的甘苦い香りが溶け込んでいて、ホルモンや牛すじをたくましく生かしている。
「野菜たっぷりグリーンカレー」は、青唐辛子とハーブ、パクチーが入り混じった香りが口を満たして、爽快な気分になる。
ハーブ風呂に浸かった気分である。
さわやかな香りが抜ける
「ほうれん草で仕上げる香りポークカレー」は、豚バラ肉を黒胡麻に漬け込んだカレーだという
酸っぱく、苦く、コクが深いカレーで、聞けば豚肉を梅酒で漬け込んでから煮込んだのだという。
どのカレーも、食材の味が生きている。
なぜ割烹の仕事からカレー屋になったのですか?」そう聞くと
「金沢の割烹にお手伝いにいった時、帰りにカレーを食べて、純粋においしいなと思ったんです。そこでカレー屋をやろうと思い立ち、修行先を辞める時にときに、今後はカレー屋をやりますとご主人に伝えたら、破門だと言われました」
「嵐山吉兆」出身であるカレー屋の親父は、そういって笑われた。
だからなのか。
普通はスパイスの味がしてから、素材の味やってくるが、ここのカリーは逆である。
そこが「和食」なのである。
その味の組み立てこそが、「和食」なのである
伊達に「吉兆」で修行してない。
和食の精神が、体の中に住み着いて、筋が通っている。
それこそが、店名を「本道」とした理由なのではないだろうか。
和食を続けるのではなく、カレー屋になっていただきありがたい。
つくづくそう思って、感謝した。