古民家で、福井の食材に敬意を払った料理を静かにいただく。

店は、鳴鹿大堰の近代化に大きく貢献した酒井利雄氏の屋敷内にあった。
大正後期から昭和初期にかけて建築され、当時の状態を残した姿に身がしまる。
店主で料理人の五十嵐美雪氏は、京都で懐石、東京ではイタリアンで修行し、地元に戻られ、店を開いた。
料理は懐石を中心にすえ、お茶ではじまり、お茶で終わる。
コースは「烏龍茶」に金木犀の香りを移したお茶から始まった。
リーデルと梵が共同開発したというグラスで、豊かな香りを感じながら飲む。
最初の料理は、「シャインマスカットと、春菊の白あえ」。
春菊の葉や茎が吸った水分が弾け飛ぶ感覚があり、みずみずしさと歯切れの良さに目を丸くする。
お造りは、「ヒラマサとかつおに甘海老」。
ヒラマサは、キレイな味なのに後から旨みがあがってくる。
カツオは、味が滑らかで、味が澄んでいる。
そして甘エビは梅干しで和え、赤大豆の枝豆添えてあった。
甘エビのねっとりとした甘みに、豆の穏やかな甘みという出会いがいい。
次は、「バイ貝を貝の出汁で」。
バイ貝の持つ繊細さ、微かな艶かしさ。
そこへつまみ菜のか弱さが、出汁の中で光っている。
「みずべこ(げんげ)のフリット、なめこおろし、山ウニ 、柚子胡椒」。
ぬるっとした体皮を持つみずべこを、カラリと揚げて、その食感の対比を楽しむ。
お椀は、「がさエビのお椀」であった。
新庄里芋と芽蓮根の団子、銀杏が、椀ツマとして添えてある。
濃密な旨味を持つ海老の赤い出汁と、そんな強い出汁にも負けない根菜の味わいが迫ってくる。
「せいこカニの押し寿司」
酢飯の酢具合がなんともいい。
蟹の甘みが生きている。
強肴は、「サワラのソテー、キノコとアンチョビソース、生木耳添え」。
サワラの味が淀みなくキレイで、かつ強さも感じる。
「牛肉とご飯」。
肉は滋賀の精肉店、サカエヤの肉、米は東郷のコシヒカリを湧水で炊いたという。
肉に、越前海岸で志野さんがつくる「百笑の塩」をつけ、肉を噛む。
猛々しい肉の味が立ち上がり、塩によって旨味が膨らみ出す。
よく噛み、肉の確かな余韻で、ご飯を噛み締める。
幸せ極まる。
甘味は、「南瓜のプリンと紅玉」。
紅玉の酸味が、南瓜に品を漂わす。
最後は五十嵐さんがたててくれる、薄茶で心を整える。
郊外にある古民家で、福井の食材に敬意を払った料理を静かにいただく。
格別な時間がここにはある。