【二泊三日の旅体験】越前・鯖江の手仕事と物語の地を巡る
「越前和紙」「越前打刃物」「越前箪笥」「越前漆器」。日本製メガネフレームの96%以上も生み出すトラディショナルな鯖江市・越前市の、手仕事と物語の地を訪ねてみませんか。職人さんと語らい、小さな「お誂え」をする少し背筋が伸びる体験。本物の魅力に溢れる二泊三日の旅を、ふく旅ライターがご案内します。
桜子
福井でみつけた美味しいもの、きれいなもの、四季の移り変わりの楽しみなどを発信します。
好きなこと/温泉めぐり、花、和楽器の演奏/
【一日目/越前市】
<越前和紙>聖地・紙祖神・岡太神社大瀧神社へ
1500年もの歴史を誇る「越前和紙」のはじまりを祀る、日本で唯一の紙の神様「岡太・大瀧(おかもと・おおたき)神社」からスタート。国の重要文化財で「日本一複雑な屋根」とされる、檜の皮葺きの屋根が5層も重なる社殿建築を、ぜひご覧になってみてください。きっと忘れられない福井旅のワンシーンになることでしょう。
■車2分<越前和紙>杉原商店「和紙屋」
のどかで美しい和紙の里に車を走らせ、次にご案内するのは、明治4年創業の老舗和紙問屋「杉原商店」。国の登録有形文化財に認定された建物は、門構えから風格が違います。築100年の蔵を改築した予約制のギャラリー兼ショップ「和紙屋」は、当時のままの太い梁に広い空間。非日常の雰囲気に、感性も刺激されます。(第4土曜日の9時から17時にオープン)
「越前和紙は、何をとっても日本一なんです」とお話されるのは「和紙ソムリエ」として職人さんと市場を繋ぎ、新しい可能性を拓かれていらっしゃる、株式会社杉原商店の10代目社長の杉原吉直さん。1500年の歴史や品質はもとより、紙漉きの職人さん、透かしの型を作る職人さん、紙を貼り合わせたり紙を切る職人さんなど、あらゆる専門分野が集結しているため、どのようなものでも作れてしまう懐の広さが強みだそうです。
蔵で供覧できる杉原商店さんの商標登録のあるオリジナル作品のなかで、ふく旅ライターは自分へのお土産に、透かし和紙の技法の絵の形を手でちぎれる「ちぎり和紙」と、越前和紙を越前漆でコーティングの美しい艶感「漆紙(うるわし)」のカード入れを買いました。はがき、名刺など、人と人のご縁結びに欠かせない紙。紙の神様に守られている越前和紙なら、より素敵なご縁を結んでいただけそうです。
海外でも越前和紙の評価は高く、杉原さんが窓口となって、NYやパリなどの海外各国のインテリアや建築物にも、越前和紙が彩られています。越前和紙の伝統と最前線を杉原さんのギャラリーで体感したら、自分へのご褒美に和紙の「お誂え」も素敵ですね。和紙ソムリエの杉原さんが、心躍る越前和紙との出会いをマリアージュしてくださいますよ。
■車15分<グルメ>日本料理店「しくら」
白壁の蔵が並ぶ「蔵の辻」の一角に佇む完全予約制の日本料理店「しくら」でランチ。全室、離れの個室でどの部屋からも風情のある庭が眺められ、小木料理長の旬の懐石コース料理を温かな接客で一品ずつ味わえます。写真は昼餉のミニ懐石(7品4200円(税込))の一部で月ごとに変わります。
食事が終わったら、蔵の辻の散策がてら、カフエ「884HAYASHI珈琲」で、コーヒーなどはいかがでしょうか。3種類の豆から挽く香り高いコーヒーと、オーナー手作りの福井名物「水ようかん」の組み合わせもおすすめです。
■車15分<越前打刃物>タケフナイフビレッジで、火造り鍛造の一本を
予約なしでも見学可能な、700年の歴史を持つ「越前打刃物」の共同工房があるタケフナイフビレッジ。カンカンカン・・と「火造り鍛造技法」の音が響き渡るリアルタイムな工場見学は、職人さんのいらっしゃる平日がおすすめです。専門ガイドさんを予約すると、館内を一緒にまわりながら、詳しく説明していただけますよ。(3,000円(税込)/1名から対応/要事前予約)
アロマの薫り漂うショップは打って変わって静かな雰囲気。スタッフの方に相談もでき、手になじむ一本をゆっくりと探せます。包丁を1本作って持ち帰れる「包丁教室」(6時間20,000円税込)などの体験教室も人気。物事の始まりを告げる祝祭の道具として、刃物は贈り物にも重宝されています。制作現場で新鮮な驚きを感じながら、現代の名工もいらっしゃるいろいろな職人さんの作品から、納得の一本を選ぶのも心弾む「お誂え」体験ですね。
■徒歩1分<おしょりん映画ロケ地>万葉の里 味真野苑にある「旧谷口家住宅」へ
タケフナイフビレッジの向かい「万葉の里味真野苑」(まんようのさと あじまのえん)内の、国の重要文化財「旧谷口家住宅」は、鯖江のめがね産業の礎を描く「おしょりん」(2023年秋公開)の映画ロケ地。かやぶき屋根の保護のため、週3回も土間で囲炉裏を焚くので、薪をくべたような薫りが漂います。映画を観る前でも観たあとでも、ぜひ足を運んでみてくださいね。
■徒歩3分<物語>万葉ロマンと四季の花豊かな庭園に癒されよう
万葉館のある味真野は恋のパワースポット。「万葉のロマンと恋の歌」をテーマに「万葉館」では、味真野が舞台の万葉恋歌などを音声や映像で紹介。ひと休みしたい時は、苑内の茶屋「万葉庵」で海鮮や手打ちそば、隣の「万葉菊花園」内のカフェ「Hugpopo」(ハグポポ)さんの、映えスイーツもおすすめ。絵になる風景の味真野苑で、万葉ロマンに思いを馳せてリフレッシュしてみませんか。(カフェは毎週月・火曜定休日)
■車20分(宿泊)ラポーゼかわだでコスパ良く温泉を楽しんで
夜は温泉で旅の疲れを癒しませんか。鯖江「かわだ温泉」の「ラポーゼかわだ」の露天は源泉かけ流し。湯質も日本では珍しいお肌ツルツルの「重曹泉」と動脈硬化防止に良い「ぼうしょう泉」のかけあわせで肌あたりも柔らかです。夕食は懐石中心に季節の素材、蟹や牛肉などをお得に堪能。お部屋もきれいで福井県池田産のコシヒカリの朝食は、郷土料理のお惣菜もたっぷり。
【二日目/鯖江市】
■車15分<越前漆器>名人に教わる〜錦古里漆器店
職人さんとの語らいや手仕事体験の旅は琴線に触れますね。越前漆器の産地で創業100年を誇る「錦古里漆器店」(きんこりしっきてん)で、ベテランの角物塗師の錦古里正孝(きんこり・まさたか)さんから教わりながら、他ではあまり経験できない「越前焼×漆」のワークショップに挑戦してみませんか。好きな越前焼のカップと塗りたい色の漆を選び、職人さんから手ほどきを受けながら、ビロードのような、なめらかな手触りのマイカップを自分に誂える時間も、素敵な思い出になりますよ。
(漆の準備のため3日前から要予約 所要時間2時間 6600円税込)
- 錦古里正孝さん
- 漆は生きているんです。いちばん難しいのは、空気中の水分との兼ね合いで、漆が硬くならないうちに塗るタイミングですね。温湿計なども使いますが、基本は感覚です。
■徒歩3分<グルメ>「椀椀」
歩いてもすぐ「うるしの里会館」の喫茶「椀椀」で、漆塗りの器でいただく「山うにランチ」もぜひ。越前海岸の名品「雲丹」と見た目がそっくりなので「かわだ山うに」と呼ばれる河田の伝統薬味です。河田産の「ゆず」、天日干しの「赤なんば」「鷹の爪」と天日塩の4つの素材をすり鉢で1時間以上練り込んで、ほのかな柚子の香りと、さわやかな辛味でお料理の味変を楽しめます。
■車25分<眼鏡>サンオプチカル〜名人に教わる
世界の「メイドインサバエ」の眼鏡産業の草分けともいえる「サンオプチカル」。1932年創業以来の手法で、眼鏡を一から手づくりされています。完成までの工程も無料で工場見学できますよ。メガネミュージアムでも開催の「メガネイトノコ」教室では、職人さんに眼鏡選びのコツや似合う眼鏡を相談、約70種類ものフレームデザイン、500種類の素材で、トレンドや機能面も備えた、世界にたった1つの眼鏡が作れます。(24,000円(税別)~レンズは含まれません)。
代表取締役の竹内公一さんのかけていらっしゃる眼鏡は、この冬に発売予定の新作のイージーオーダーフレーム。顔立ちにフィットするように眼球の動きまで加味。市場に出す前に実際にかけて確かめるという職人魂です。感性溢れる「奇人眼鏡」という併設ギャラリー・カフェ(予約制)で、これまで手掛けた眼鏡も見れます。眼鏡作りに愛情と誇りを持つ職人さんと作る福井らしい旅のストーリー。完成したあかつきには、新たな扉をあけてくれる素敵な相棒となるに違いありません。(フレームのイージーオーダーは、66,000円(税抜き~)
- 竹内公一さん
- 嬉しかったことは、イトノコ教室が楽しかったというお礼のお手紙。これからも楽しく、ものづくりをしていきたいです。
■車2分<眼鏡>レンズパーク
「レンズパーク」は、隣接する乾レンズがプロデュースした2023年に誕生の「目を守り、暮らしを楽しむ」をテーマにした複合施設。1階ギャラリーでは320枚のレンズと展示されているフレームや、持ち込みのフレームから眼鏡が作れたり、カフェやお子さん向けのワークショップもあるなど、多世代が楽しめるお洒落な空間です。乾レンズでは有料で工場見学ツアーも行っています(詳細はwebサイト)
「眼鏡を買う経験を楽しいものに変えたかった」と、レンズパークの発案者、乾レンズ常務の諸井晴彦さん。目を悪くしてサングラスに助けられた経験から、レンズの目を守る力を広く伝えたいと、1階の320色のレンズから好きな色を選んで、2階の屋上テラスで空にかざして紫外線の違いを実感できるなどの楽しい体験も企画されています。鯖江産の人気商品の制作ストーリーなどもお聞きでき、レンズが運んでくれる新しくて柔らかな世界に出会えます。
使い手の視点にたった、機能性とデザイン性を兼ね備えたオリジナルの商品も充実。着る服の襟まわりを選ばないデザインのルーペや、鯖江の手織物「石田縞」があしらわれた、シャツポケットにはさめる薄いメガネ型ルーペ、ドレミファ順に音が違う眼鏡素材のチタンのベルなど、お土産やギフトにもおすすめです。
■車2分<グルメ/夕食>二男坊
福井にいらっしゃったら、ぜひ地元のお蕎麦もご賞味ください。鯖江で人気の越前蕎麦のお店「二男坊」。厚いカツオのけずり節の濃厚だしと、石臼ひきの県産の蕎麦は、つるっとした食感。名物の「あげおろしそば」は、軽く炙った油揚げに、おろし辛味大根やネギ、かつお節がマッチング。福井県人のソウルフード「ソースかつ丼」もプラスした「二男坊セット」で、まるごと福井を味わって。
■車20分<宿泊>静かな寺町通の美食宿「Ecizen京よろず」へ
2日目は料亭「おりょうり京町萬谷」プロデュースの料亭オーベルジュで「Ecizen京よろず」で、非日常なご褒美時間を味わいませんか。石畳やつり灯篭が幽玄な寺町通りに溶け込む瀟洒な外観。寝室とリビングが分かれた「Zen」(禅)と、岩風呂の楽しめる「Koshi」(越)と一棟貸しの別邸「京よろず」の3部屋のみの大人の隠れ宿。今回は「禅」に泊まってみました。
■徒歩1分<グルメ>蕎麦 うるしや
雰囲気も良く、そぞろ歩きも楽しめそうな夜の寺町通り。ちょっと歩いたら出会う雰囲気のあるお店「蕎麦 うるしや」は、創業文久元年の160年以上も歴史のある老舗のお店。昭和天皇が召し上がった「越前そば」再現の「名代そば」(なだいそば)には抹茶が練り込まれ、先代が、新蕎麦の淡い緑の色を一年を通して目で感じて欲しいと始められました。日本庭園を眺めての名代そばと自家製の鯖寿司、丹南の地酒は至福の時間。
「Ecizen京よろず」の朝。さすがはオーベルジュの朝ごはん。地元の是広商店さんのお豆腐や、福井梅やトマトの越のルビーなどの福井の名品や、土鍋で炊いた福井県産コシヒカリなど、ワンランク上の懐石朝食は、忘れられない感動の美味しさ。優雅な朝が迎えられます。おもてなし料理を丹南の地酒とともに堪能できるオーベルジュの真骨頂のお夕食もぜひご賞味ください。
【三日目/越前市】
■車2分<越前箪笥>名人に教わる~Kicoruキコル小柳箪笥店
本日は最年少で越前箪笥の伝統工芸士を取得、明治40年(1907年)創業の越前箪笥工房「小柳箪笥」(おやなぎたんす)4代目の、小柳範和(おやなぎのりかず)さんに教わるワークショップのご紹介です。小柳さんの願いは「越前箪笥全体を盛り上げ、後継者を育てる」こと。そのために、親しみやすい木製雑貨の制作なども手がけていらっしゃるそうです。
越前箪笥の技法のひとつ「指物」(釘を使わずに板を組む)をプチ体験できるのが、今回ご紹介の「福ひのき香り枡造りとカンナけずり」体験。(所要時間30分・料金2500円・要予約)。工房の檜から切り出された板を使って、枡を組み立てます。きちんと美しく組み合わせができるように木を切るのも培われた技ですね。枡なので組む方向も「福が入る」という組み方。日本の文化も自然と学べます。
糊が乾くまで工房奥で国産檜の原木のかんながけ体験。お手本の小柳さんが檜の木に流れるようにかんなをかけると、シルクのようにふんわり檜がけずられます。交代して体験。上質な檜の香りにリフレッシュできますよ。ワークショップ参加の方には、指物、越前漆、飾り金具(越前打刃物)の3つの伝統工芸の技法が必要な越前箪笥作りをひとりで行っていらっしゃる工房の様子も説明してくださいます。
削りたてのフレッシュな檜でバラを作り、檜のオイルもお土産にいただけます。アトリエ兼セレクトショップ「Kicoru」では、木製スピーカーや縁起物のコースターなど、伝統工芸士の小柳さんの本物の技が暮らしに寄り添う形で提案された多彩な商品があります。使い込むほど美しさを増す堅牢な越前箪笥を誂えてみたくなったら、サイズなどの要望にあわせて、小柳さんが相談にのってくださるそうですよ。
- 小柳範和さん
- 新しいものに挑戦するのが、小柳箪笥のDNA。
ひたすら続けて、お客様に喜ばれるものづくりをしていきたいです。
箪笥通りには、レトロな看板がいっぱいです。江戸時代から木工技術を持った職人さんが中心に住んでいらっしゃったそうです。
どこか心温まる気持ちになれるスポット。このあたりはお散歩したいエリアですね。
■車2分〈物語>「ちひろの生まれた家」記念館
ノスタルジックな路地に佇む町家の上品な空気感。ちひろさん世界に惹き込まれてしまいます。畳の小上がりもある絵本ライブラリーは童心に帰って、いろいろな絵本を楽しめます。いつのまにか忘れていた気持ちを思い出せる大人の絵本タイムで、心安らぐ越前の旅を過ごしましょう。
■車5分 〈物語〉紫式部公園・紫ゆかりの館
2024年の大河ドラマ「光る君」の主人公は才女・紫式部。ドラマに先がけてみませんか。3000坪の広大な紫式部公園は全国唯一の寝殿造りの公園。水辺に映る赤い「反橋」(そりばし)や平橋もおすすめの撮影スポット。紫式部と越前国府のかかわりを紹介する「紫ゆかりの館」で、源氏物語の有名な7名の姫君のどのタイプにあてはまるかの診断ができる「姫みくじ」を楽しみ、式部にあやかり、旅の思い出をしたためてみませんか。
旅はいかがでしたでしょうか。まだまだご紹介したい手仕事の工房や体験、職人さん、見どころ等たくさんあって、できれば二泊三日くらいで、ゆったりとお過ごしいただきたいエリアです。しっとりとした風情と丁寧な手仕事との一期一会の出会いのある越前市、鯖江市にぜひ、お越しくださいませ。